麺の夜明け 〜食べる灯り、神への祈り〜

「粒食」から「粉食」へ

今回のブログは、日本の食文化に欠くことのできない「麺食」について、掘り下げていきます。最近は、すっかりラーメンに押され気味ですが、古来、日本の「麺食」の双極といえば、そば・うどんです。
しかし、縄文の昔から米などの穀物を「粒」で食べてきた日本人が、なぜ「麺」を食べるようになったのでしょうか。いや、そもそも「麺食」以前に、なぜ米や雑穀を粉にして食べるようになったのでしょうか。「麺食」の前段階の、穀物を粉にして食べる「粉食(ふんしょく)」。これがなければ、麺は始まりません。

それでは、「粉食」について探っていきます。さかのぼること1300年あまり、時は奈良時代です。遣唐使たちによって、大陸の古事に倣い、季節の節目の行事(節句)に、神仏へ捧げる供物として、唐菓子(とうがし・からくだもの)が伝わりました。しかし、これらは現代の私たちがコンビニで買うお菓子とは、訳が違います。
天皇や貴族、そして神仏しか口にできないもの。ただ高級品と呼ぶのでは足りないくらいに、高貴で崇高なものでした。また、この時代に砂糖はなく、蜂蜜や植物の樹液を煮詰めた甘味料がわずかにあった程度です。

白い砂金、一滴の宝石

内訳を詳しく見ていきます。まず小麦粉です。
当時の製粉技術は、杵(きね)と臼(うす)で穀物をつくことでした。硬い小麦の粒をひたすら叩き、砕いていたのです。叩いてはふるいにかけ、残りをまた叩く……。気の遠くなるような労力の果てに得られる小麦粉は、まさに「白い砂金」とも呼べるような貴重品でした。

また、当時のふるいは竹や麻糸、馬毛などで作られたもので、目も粗くサラサラの細かい粉を取り出すのはとても難しいことでした。

さらに油です。油は粉以上に価値のあるものでした。当時の油は、胡麻油が主でした。また、当時の搾油技術は、上に石などの重りを乗せたり、てこの原理で圧をかける圧搾で、大変効率が悪いものでした。
胡麻の体積に対して、搾り取れる油は、数%から10%程度しか取れません。一合の油を取り出すのに、大きなボウルにいっぱいの胡麻が必要になります。

胡麻の希少性について、農家の観点からもう少し掘り下げてみます。
現在の農業で、胡麻は300坪あたり60kg〜100kgほど取れます。対して米は、300坪あたり500kg〜600kgも取れます。胡麻の収量は、米に比べて1/10〜1/6程度とかなり少なめです。
奈良時代の胡麻がどれほど取れたかのデータはありませんが、米は古代米と言われる当時の米を現代に栽培した実験データがあります。
それによると、奈良時代の米は300坪あたり100kg〜150kgと現代の1/6〜1/4となってしまいます。これを元に、当時の胡麻の収量を予想すると、300坪あたり15kg〜25kg程度、あるいはそれ以下ということになります。
さらに、ここから搾り取れる油は、せいぜい1.5kg〜2.5kg程度となります。当時の油は、その一滴すら特別なものだったのです。

贅を尽くす、神への祈り

本来、胡麻油は貴族たちの間で灯火の燃料として、わずかな量が用いられてきたものです。にもかかわらず、唐菓子を作るには、この特別な油をなみなみと湯水の如く注いで揚げるわけです。なぜこれほどまでに、あふれんばかりの手間暇と財を注ぎ贅を尽くしたのでしょうか?
それは、一にも二にも、魔を祓い、世を浄め鎮めてくれる、神仏へ捧げるためです。さらに、もうひとつ。
これらの供物は、儀式の後、人間が食べます。これは、神様が食べたもの(神聖な力が宿る)をいただく、つまり、神の力を体内に取り込むという特別な意味を持つものです。
これが、ただの高級品という以上に、高貴で崇高なる食べ物たるゆえんです。そしてこれらを食べられた人は、ごく一部の限られた貴族や高僧たちだけでした。

さて、それら唐菓子の中で麺の祖とされるのが、「索餅(さくべい)」です。これは、小麦粉と米粉を練り塩で味つけた生地を、綱状に絡めて油で揚げたものです。揚げ物であった上に、綱のように太い形状でしたから、食感もポリポリしており、麺と呼ぶには程遠いものでした。


ちなみに、この「索餅」ですが、長崎に「よりより」と呼ばれるお菓子が当時の面影のまま、1300年経った今も残っています。味は変わって、甘いお菓子だそうです。
さて、この「索餅」から、私たちに馴染みのある形の麺が誕生するまで、まだ数百年の時を待たねばなりません。
高貴な目的と、日々の安寧を求める必然によって支えられ、今日の麺食文化が花開き、後の世に広く染み渡ったことを感慨深く思います。次回は、「黒船ならぬ黒衣がもたらした最先端のハイテク」とともに、さらに麺のルーツを辿ります。
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