前回のブログでは、美味い蕎麦を作るための製粉法について掘り下げました。そして、出来上がった蕎麦を美味しく食べるために欠かせないのが、やはり「汁」です。
今回はその「汁」に注目します。
「返し」と「出汁」で決まる、蕎麦汁の真髄

そばを生かすも殺すも汁次第。汁が美味しくなければ、せっかくのいい蕎麦も台無しです。逆に、美味い汁で食べれば、そこそこの蕎麦でも美味しく感じることがあります。汁とは、それほどまでに力を持つ存在なのです。
では、その蕎麦汁とは一体何でできているのか。まずは「返し」からです。返しにもいくつか種類がありますが、ここでは「本返し」をご紹介します。これは、醤油と砂糖と味醂を混ぜ合わせ、ひと煮立ちさせたものです。火にかけることで、醤油のもつ塩味や香りが穏やかに、まろやかになります。
ちなみに「返し」の語源は「煮返す」から来ているそうです。
そしてもう一つ、食材の美味さを引き出す「出汁」です。蕎麦汁用の出汁は、鰹節で取るのが基本ですが、より深みを出すために鯖・宗田・鮪など他の節を混ぜて使うこともあります。
ここまでで、蕎麦汁の材料は概ね分かりました。では、美味い汁とはどういうものなのでしょうか?
よく聞くのは「コクとキレ」です。この二つの言葉、なんとなく相反するような印象もありますし、そもそも何を指しているのか、分かるようで実はよく分かりません。味覚という感覚的なものを言葉で表すのは、本当に無理があるといつも感じます。
さて、話は当店開店時にさかのぼります。
美味い汁とは何かも分からないなりに、とにかく何かしら作らねばなりません。そこで、近所のコンビニで見つけた「出汁の取り方」の本を頼りに、汁づくりを始めました。恥ずかしながら、最初はそんな酷い有様でした。
自分でも汁が美味しくないのは重々承知していましたが、どうしたら美味しくなるのか見当もつきません。材料はちゃんとしたものを使っているのに美味しく作れない。それはもう閉塞感が重くのしかかる日々です。
ご存知の方もいらっしゃるかもしれませんが、私の前職はトラック運転手です。飲食店の経験などないので、美味しい汁など作れるはずがないという思いもあり、最初は市販の汁を使おうと考えていました。しかし周りの人から「こんなにいい蕎麦を市販の汁で食べたら勿体無い」と猛抗をいただきまして、渋々自家製の汁を作ることにしたわけですが、経験のなさはどうしようもありません。時折、後悔することもありましたが、やり始めたからには後には引けぬ、そんな思いで夜な夜な試行錯誤で出汁を取り続けました。
そうしてオープンから半年が過ぎた頃、あるお客さんから言われたことが今でも忘れられません。
「コクが出てきたら次はキレだな」
試行錯誤の甲斐あって、ようやく美味しいと思えるものができてきた矢先に訪れた、次なる課題。それまで思いつく限りのアイディアを試してきて、さらに「キレ」なんてどうやったら出せるのか…そんな思いに駆られました。
以来、どうすれば「キレが出るか」をずっと考えてきました。新たにアイディアが浮かんだら試すを繰り返し、少しずつ改良してきました。次のアイディアが浮かぶまでひとまずの完成、そんな感じです。
「スッキリ、だけど深い」そんな汁を目指して

そんな中、最近訪れた出雲で蕎麦を食べ、衝撃を受けるわけです。食べ終えた時に口に残るのは、まさにスッキリとしたものです。それでいて、決して軽い味ではなく、出汁もしっかりきいています。これはつまり「コクがある」ということです。でも同時に、何度食べてもスッキリした透き通るような感覚の味がします。
スッキリした味、つまり雑味がないことが「キレ」の正体です。知識としては知っていても、実際にはどんなものかなかなか分かりません。実物を目にした時に得る理解とは全く別物です。「百聞は一見にしかず」まさにそんな体験でした。
今更ながら、ようやく「キレ」の本質に触れられたことを嬉しく思います。
というわけで、汁もまた、引き続き改良中です。どうぞ、ご期待ください。
今日もありがとうございます。
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