以前のブログでも触れましたが、出雲の老舗の蕎麦店でそばを食べて、その美味しさに大きな衝撃と刺激を受けました。以来毎日、より美味しい蕎麦へと改良するべくあれこれ思案しております。
材料はシンプル、されど奥深い
さて、蕎麦の味は何で決まるのかと言いますと、主に麺とつゆが挙げられますが、今回は主役である麺、とりわけ蕎麦粉について考えます。蕎麦を打つにあたり、その材料はシンプルに蕎麦粉・小麦粉・水のたった3つです。蕎麦打ちには調味料を一切使いませんので、より美味しくと言っても、あまり変化のつけようがなく思えます。
以前のプログでも水について触れましたが、水の違いは蕎麦を不味くするかしないかだと私は考えます。小麦粉は、麺の繋がりや腰、喉越しといった食感に大きな影響がありますが、蕎麦においては補助的な存在です。
では、最も簡単で効果的な手段として、蕎麦の産地を変えれば味・香りが変えられますが、当店で使用する蕎麦は自家製の丹那産と決まっているため、他所のものを使う選択肢はありません。
ここまで聞くと話は詰んでしまって改良の余地などないように思えます。しかし、私には諦められません。
今回は製粉について、もう一度じっくり見つめ直してみることにしました。そうしているうちに、蕎麦の仕上がりに違いを生み出す要素が少しずつ見えてきたのです。中でも大きな鍵を握るのが「蕎麦粉の粒度」であり、それを左右するのが「石臼の製粉条件」と「篩の網目の大きさ」の2つです。
蕎麦粉の粒度が語る、蕎麦の個性
コーヒー豆と同じように、蕎麦粉にも細挽きや粗挽きがあります。当店では、製粉には電動の石臼を使用しています。この石臼は、1分あたりの回転数と1回転あたりの蕎麦の実の投入量が自在に調節できる優れものです。

細かく挽きたければ、ゆっくり回して少しずつ実を入れることになります。粗く挽きたい場合はその逆をやります。麺の特徴として、細かく挽けば挽くほど滑らかな食感となり、麺の繋がりも良くなります。滑らかな麺のツルッとした食感は口当たりが良く、喉越しは心地よいのですが、粗々しい力強さは薄れます。少し矛盾するようですが、麺が切れにくくなることで腰は強めになります。
一方で、粗く挽いた粉はザラついた食感となり、麺が切れやすくなります。わずかに粒感の残る麺は、噛むたびにかすかな蕎麦の香りが広がりますが、胡麻粒を噛んだときのような、異物感が気になることもあります。また麺が切れやすい分、腰は弱めです。
石臼で挽いた粉は、次に篩にかけて蕎麦殻や甘皮などを取り除きます。この篩の工程にも、重要な役割があります。というのも、網目の大きさによって最終的な粉の粒度が変わるからです。
蕎麦の実は、中心にある胚乳部分が比較的細かく挽きやすく、外側の甘皮や殻に近い部分ほど粗くなります。そして香りや栄養、色味はこの外側部分に多く含まれています。つまり、細かい目の篩を使えば使うほど、香りや風味の元となる部分が取り除かれてしまう。逆に粗い篩を使い、外側部分が入りすぎると風味は強くなるけれど、エグ味やザラつき、麺の色味の変化やツルッとした食感も損なわれていきます。ここもまた、打ち手の好みや蕎麦の個性に応じて網目の選定が必要です。
こうして見ていくと、材料を「蕎麦粉・小麦粉・水」の3つしか使わないにもかかわらず、蕎麦打ちの改良にはこれほど多くの可能性があることに気づかされます。
これまで製粉に関しては「ゆっくり丁寧に」のみを心がけてきました。それがいちばんいい方法だと考えていたからです。でも今は、少しずつ視野が広がってきました。自分の中だけでなく、外の世界を見て、触れて、感じることで無限の可能性に気づくことができました。
まだまだ道半ば。悩んだり、迷ったり、試行錯誤の日々ですが、それでも次の一歩が楽しみでなりません。今日もありがとうございます。
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